当サイトでは「汽車」の描かれた標識の微妙なデザインの違いについていくつか取り上げていますが、「世界のサインとマーク」によれば「汽車」の標識は制定後2度デザインの変更がなされているということです。
本当は同書掲載のデザインを各世代の「標準デザイン」とした上でそれぞれの標識の細かな差異を比較したいところですが、勝手にコピー・転載するわけにもいきませんので、ここでは「きしゃにちゅうい」各回の標識のうち各世代に当てはまると思われるものを併記します。
- 「汽車」以前
踏切警戒標識が初めて制定されたのは1922年、最初のデザインは昔の踏切遮断機である「柵」をデザインしたものだったそうです。(「線路と枕木」とする説もあるようですが、「世界のサインとマーク」ではヨーロッパの踏切警戒標識に例のある「柵」とされています。)
その後1942年に一度改正がありましたが、「汽車」の登場は戦後になるまで待たねばなりません。
- 「汽車」標識の登場
「汽車」初登場は1950年。形や色は現在のものとほぼ変わりません。また、汽車のデザインもあまり違和感を感じませんが、強いて言えば工場の専用線などで使われた「産業機関車風」でしょうか。
現行のものと見分けるには「キャブ(運転席)の入り口を表わす切り欠きがあるかどうか(この世代にはない模様)」あたりがよさそうです。
- 該当すると思われる標識の例:Vol.9 高松琴平電鉄志度線 (煙突の形態などやや「ヘタ」度が高い)
- 短命だった二代目
どう言った理由かわかりませんが、踏切警戒標識は1960年にデザインが変更されています。 ボイラが細くややスマートですが、全体的に少し弱々しくも見えます。なんとなく「軽便鉄道風」な形の汽車です。煙は初代よりも後ろに勢いよく流れていますが、煙突から出た直後の描写がうまくないためかスピード感は今一つ。
「へたうまバージョン」は、この時代の標識の中でも「特にヘタ」だったもののようです。
この2代目が製造された期間は非常に短く、改正後3年にして現行の「第3世代」デザインが登場します。
- 該当すると思われる標識の例:Vol.3 北海道 釧網線沿線(へたうまバージョン)
- 現行版へ
さすがに2代目が不評だったのか、1963年に現在まで使用されているデザインに変更されました。 特定の形式の機関車を意識したと思われる大変「上手」な絵になっています。(この機関車の形式がわかる方がいらっしゃいましたらぜひお知らせください。) 今日もっとも目にする機会の多いのはこの3代目だと思いますが、多少の違いはあるもののいまのところあまり「へた」なものは見つかっていません。この世代最高の変わり者はやはり「裏返し」でしょう。
- 該当すると思われる標識の例:Vol.10 小田急電鉄江ノ島線沿線 ほか多数
- 電車化
1975年、国鉄での蒸気機関車の営業運転が終了し、踏切でいくら待っても蒸気機関車が来ることは無くなってしまいました。
それからしばらくたった1986年、ついに踏切警戒標識に電車が描かれることになります。
「蒸気機関車を見たことがない子供には『汽車』の標識がわからない」(と、強硬に主張した親がいた)ため、という話を聞いたこともありますが、真偽は定かではありません。
電車標識も調べていけば『汽車』ほどでないにしろそれなりの個性が見いだせるかもしれませんが、これ以上警戒標識にのめり込むのも危険なので(笑)、他に譲ることとします。
- 「汽車」の標識は今も現役
見かける機会こそ減ってきましたが、「汽車」の標識は廃止されたわけではなく、「電車」標識とともに今も現役です。(参考:キクテックWebサイト(道路標識のいろいろ):汽車は207-A、電車は207-B)
よって、汽車であることだけを理由に撤去されることは少ないと思われますが、「電車」標識制定後に新規に建植された実例があるかどうかはいまのところわかりません。また、「汽車」の標識が破損等で交換・再建される場合、どちらが選択されるかについても不明です。
最近はあちらこちらで蒸気機関車が復活運転されるようになりましたが、実物が復活した線区で「汽車」の標識も復活していたら楽しいのですが。
「汽車」のデザインが製造年によって大きく3グループに分かれることはわかりましたが、そのグループ内での「個性」はやはり存在しています。当サイトは今後も、「個性的な汽車の標識」と「汽車の標識のある風景」を取り上げていきたいと考えています。
参考図書:世界のサインとマーク
(村越 愛策 監修 世界文化社 2002年4月30日 初版第1刷 ISBN4-418-02404-2 \2,400)
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